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「聴竹居」

 「家を建てる」という作業も三度目ともなると、「住宅というものはどうあるべきか」ということについて、それなりに考えるようになる。

 「住宅は住むための機械である。」と言ったのはル・コルビジェで、この定義が現代住宅の出発点になったと言われている。 しかし日本では、戦後成人男性は企業戦士として狩り出され、住宅は一家の主たる男性にとっては、単にそのねぐらの機能を果たすのみとなった。 これを捉えて建築家の隈研吾は、「住宅は女性による家庭支配のための機械である」と言い直した。 以後住宅のマーケットは女性志向となり、住宅展示場を覗いてみると判るように、もっぱら女性に阿る住宅ばかりが登場することとなった。

 ライフスタイルの洋風化につれ、工法も在来の軸組み工法から2x4や、コンクリート造、鉄骨造、プレハブ工法へと多様化して、畳敷きの和室が減り、床の間が消え、大黒柱が消え、前栽が消え、そして一家の主の居場所が失われたのが、今の日本の住宅ではないだろうか。

 しかし周りを見てみると、女性は低賃金労働に喜んで狩り出されて主婦不在となり、女性が家庭支配を望んだ住宅は、今や空き家同然の状態で、そこには家族の幸せなどない。 ならばそのような住まい手の変化に応じた新しい住宅が提案されているかというと、そのようなものはまったく見当たらない。 

 建築家たちは、「日本の住宅はどうあるべきか」について明確なコンセプトを示しているのだろうか。 建築や建築史についての書籍を濫読してみるが、容易に見つからない。 

 日本の建築家たちは、公共の建造物や企業の建造物、あるいは富裕階層のための住宅などの設計には血道をあげるが、一般庶民の住宅設計には本気で取り組んでいないようにも見える。 

 日本の住宅について真剣に考えた建築家はいないのかと、ネット検索していると、「藤井厚二」という建築家に行き着いた。

 彼は「真に日本の気候・風土にあった日本人の身体に適した住宅」を生涯追い求めたといわれていて、昭和三年(1928年)に京都府乙訓郡大山崎の天王山の麓に自邸として建てた「聴竹居」はその集大成といわれている。 

 「聴竹居」は20世紀初頭に日本全体が欧米を模範とする近代化路線を邁進する中で、彼が日本の気候・風土に適応した住宅のあり方を実証するため、大山崎の豊かな緑の中に5棟におよぶ実験住宅を次々と建てた中の最終作である。 そこには和洋の生活様式の統合とともに日本の自然との調和を目指し、その地の気候・風土と共生するためのさまざまな工夫が施されている。

  設計図や写真を見ると、建物内外の通気や各部屋間の通風、床下涼気の積極利用と屋根裏の熱気の排出、熱効率を高める建物配置など、パッシブデザインが行き届いている。 特にクーラー代わりに夏の西風を取り入れる床下の陶製の導気筒などは秀逸である。
 断熱性についても十分な検討がされ、屋根や壁の材料が場所に応じて選択されている。

 またリビングルームを中心としたワンルーム形式の室内には、欄間や四半円に切り取られた開口、床坐と椅子坐の組み合わせや、高床の床の間、違い棚、格子窓など随所に伝統的な和風と洋風の融合が図られている。 もっとも今の視点で見ると、やや饒舌な印象を受けるが、これは建築年代を考慮しなければならないと思う。

 「聴竹居」で彼が目指したものは、日本の気候・風土そして時代のライフスタイルに適合した住宅で、具体的には、以下の三点である。
        ○ 科学的アプローチを駆使したパッシブな建築計画とデザイン
        ○. 自然素材の利用
        ○ 洋風と和風を統合したデザイン

 これらのポイントは、今回私が家をつくるにあたって立てた基本設計のコンセプトにすべて含まれている。 なんと80年も前に現代の二ーズを理解し、実現しようとした建築家がすでにいたのだ。 

 藤井厚二は、「聴竹居」建設と相前後して上梓した日本の住宅に対する理念や研究による理論を纏めた著書「日本の住宅」(昭和3年出版)の最初の章で、「個人主義、実利主義等の発達して来た今日では、住宅建築が重大なる地位を占めるに至り、何れの国でも其の国の建築を代表するものは住宅建築である」と明言している。

 さらに日本の文化が欧米文化に盲従して模倣の域を出ないことや忠実な模倣による住宅は理想から程遠いことを指摘している。 そして「我が国固有の環境に調和し、その生活に適応すべき真の日本文化住宅を創成せねばならない」と説いている。

 これはまさしく現代の建築家に求められていることなのではないだろうか。

 ('11.02.16)


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